女性の病気について

乳癌

1)乳癌とは

乳癌の好発年齢は40~60歳です。罹患率は約6%で、女性の癌としては最も多く、女性の癌全体の20%を占めています。一方、死亡率は、大腸、肺、胃、膵臓に次いで第5位で、癌による死亡の9%を占めています1)。日本人女性の乳癌の年齢調整死亡率は,欧米諸国の3分の2程度です。

2)乳癌の症状

乳癌の症状としては、乳房の腫瘤感や乳頭からの分泌物等があります。乳房の腫瘤は、乳腺線維腺腫や乳腺症などの良性疾患が原因のことも多くありますが、一般的に乳癌では片側性で、硬い腫瘤として触れます。表面が凸凹とした不整形で、えくぼのようにひきつれたりしますが、痛みを伴うことは少ないと言われています。乳頭から分泌物を伴う場合は、サラッとした液体や血性であることが多いようです。湿疹が乳頭、乳輪部のただれたような変化の場合は、乳頭近くに発生した癌が進展している可能性もあります。いずれにしろ、腫瘤や分泌物だけで自己判断せず、症状がある場合には、速やかに専門医(乳腺外科)を受診して下さい。

3)乳癌の検査

2年に1回、40~74歳女性に対するマンモグラフィによる検診を厚生省は推奨しています。マンモグラフィは、乳房の腫瘤に対する乳癌の鑑別だけではなく、腫瘤を触知しない段階での乳癌の検出にも有用です。腫瘍陰影、石灰化像、周囲組織の変化等の所見をもとに評価されます。他に視触診法、超音波断層法やMRI検査が用いられます2)。また乳癌の診断を確定させるために穿刺細胞診や生検といった検査も行われます。さらに、場合によって、PET等も行われることがあります。

4)乳癌の遺伝性

乳癌の5~10%は遺伝性つまり、家族性であることが知られています。癌の発生を抑制する癌抑制遺伝子(BRCA1,BRCA2遺伝子)の一部に変異があると、遺伝性乳癌卵巣癌症候群(hereditary breast and ovarian cancer syndrome: HBOC)ということになり、その女性の生涯において乳癌や卵巣癌を高率に発症することが分かっています3)。そこで、このHBOCの女性に予防的に乳房を切除するリスク低減乳房切除術(risk reducing mastectomy;RRM)や卵巣癌の発症予防を目的としたリスク低減卵管卵巣摘出術(risk-reducing salpingo-oophorectomy: RRSO)が行われることがあります4)。このように、遺伝性の乳癌がありますので、近親の血縁者に卵巣癌・乳癌患者がいる場合は、それらの癌の発生率が高いことがあり、予防医学の観点からも定期的な健診が必要になります。遺伝性腫瘍の遺伝カウンセリングでは腫瘍のリスク評価とともに、患者や家族の抱える心理的葛藤や問題、ニーズなども話し合うことができます5)

5)乳癌の治療

乳癌の進行の程度により、手術、化学療法、放射線療法、薬物療法等を組み合わせて治療が行われます。薬物療法には,内分泌療法,化学療法および抗HER2療法があり,それぞれ特性は違いますが、いずれも生存期間の改善が期待されます。乳癌の進行の程度は、腫瘤の大きさ、リンパ節や離れた他の臓器への転移の有無により、0~Ⅳ 期の5段階に分類されます。0期やⅠ期の5年生存率は90%以上であり、他の癌同様に早期発見が重要です。癌の早期発見のためには、乳癌検診をきちんと受けることが大切です。
乳癌発症の予防にはアルコール摂取を控え、閉経後の肥満を避けるために体重を管理し、身体活動量を増やすことが重要です。

6)妊娠中の乳癌検診

妊娠中あるいは授乳期であっても、乳癌を発症する可能性はあり、高年妊娠はリスクの一つで、3,000妊娠・出産に1人の割合で乳癌と診断されることがあります。しかし、この時期は乳腺が発達するので、乳房の腫瘤が発見しづらくなります6)。単孔性(一つの穴から)分泌、血性の乳頭分泌は気を付けるべき症状です。この時期の乳癌の予後が悪いわけではありませんが、発見が遅れ、癌が進行してしまうことがあります。妊娠12~34週ごろまでは全身麻酔下の乳がん手術や化学療法が可能です。乳腺外科や産婦人科など多診療科の連携体制ができる病院でのフォロー必要となります。

  • 1) 国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」(http://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/dl/index.html
  • 2) 日本医学放射線学会/日本放射線技術学会編: 被ばくによるリスクと乳がん検診の利益/リスク比.マンモグラフィガイドライン.第3版.増補版,東京: 医学書院,91―94.2014,
  • 3) National Comprehensive Cancer Network. NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology. Genetic/familial high―risk assessment:Breast and Ovarian. ver 1. 2018.
  • 4) Rebbeck TR, Kauff ND, Domchek SM:Meta-analysis of risk reduction estimates associated with risk-reducing salpingo-oophorectomy in BRCA1 or BRCA2 mutation carriers. J Natl Cancer Inst 101:80-87, 2009
  • 5) 小川真理子、高松 潔:家族性腫瘍のリスクを持つ女性に対するメンタルケア. 本庄英雄 監修.最新女性心身医学.東京都:ぱーそん書房;293-296, 2015
  • 6) Pavlidis, NA. Coexistence of pregnancy and malignancy. Oncologist. 7(4), 279-287.2002